「129時間眠れなかった作家の独白」
以前、僕は明け方4時か5時頃まで起きていて、昼頃目を覚ます生活サイクルを保っていた。机に向かっていると夜中の12時頃から明け方3時頃まで精神的にハイになり、ぐんぐん仕事が進んだ。そのはかどり方に未練があり、なかなかこの変な時間帯の生活を止めることができなかった。
しかし、それも子供ができて彼が学校に行き出し、朝のスクールバスに乗せなくてはならなくなって変わってしまった。今は夜11時前に寝て、7時過ぎには起きる普通の生活サイクルとなっている。
寝ることは好きなのであまり睡眠について考えたことはない。それでも、睡眠の途中で目覚めてしまい、それから数時間眠りにつけないことがある。そんな時間、泥の中から水中に浮かんでくる気泡のように、昼間とは違った次元の思考が次々と頭の中に浮かぶ。その思考は、疲れを感じている身体とは関係なく、止めようとしても止めることができない。
今回読んだのは1979年生まれの作家ブレーク・バトラーの「Nothing」。副題は「A Portrait of Insomnia(不眠症のポートレイト)」となっている。
バトラーは彼の世代を代表する作家として注目されているが、僕はニューヨーク・タイムズ紙に載った書評を読んでこの本に興味を持った。
バトラー自身、不眠症に悩まされ、129時間眠れなかった経験を持つ。彼の眠りに対する考えや、眠れない時に頭のなかにどんな考えが浮かんでくるかを一人称で書いている。
ひとつのセンテンス(と言っていいかどうかも分からないが)が数ページに及び、読んでいくうちにバトラーの精神の世界に入り込んでしまう。彼のメディテーションの中を彷徨っている感覚だ。
しかし、この本は何のカテゴリーに入るのだろう。メモワールと言えば言えなくもないが、不眠症についての科学的な記述もある。言うなれば、意識の流れとメモワール的な要素、それに解説的なものを実験的なスタイルにまとめたスーパー・クールな文章となると思う。
「 眠れない3日目には色彩のパネルが現れ始めた・・・。そのほかの時には、僕の視覚のなかでその色彩が点や楕円の形を作る」
バトラーの意識は止めどなく流れ、読者は彼の意識にどっぷりと浸かり,最後には全てのアングルを失い「Nothing(無)」の中に漂うことになる。
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